Dr.ピペリジンのブログ

少年は思った、ドラッグストア でポテチ売りたいな。そんな気持ちで薬学に進学した人の後日談。お問い合わせも気軽にどうぞ。

オックスフォード大学での研究が実を結ぶ

どうも伊予柑です。

オックスフォード大学での研究が遂に論文化?されました。

(まだプレプリントの段階なので論文化と言って良いものか?そのうちきちんとした査読付き論文でアクセプトされるでしょう。えっされるよね?)

A New Organocatalytic Desymmetrization Reaction Enables the Enantioselective Total Synthesis of Madangamine E | Catalysis | ChemRxiv | Cambridge Open Engage


感、慨、無、量

です。

オンライン化された日は嬉しくてあんま眠れませんでした!

僕はオックスフォードで3年研究してましたが成果はこれまでオンライン化されていなかったので、要するにアカデミック的には完全なる【ダメ人間】扱いです。

こんな研究頑張ってました!良いとこまで持って行きました!!なんてのは企業での就活では少し役立つかもしれませんがアカデミックでは無意味なのです。

イギリスに3年いて論文なしというのは、なんなら海外なんて行かずに博士号取り立てです、って方が良いというくらいです。

 

しかし今回オンライン化されたことでイギリスで紅茶飲んでた人→イギリスで研究してた人、くらい印象が違います。

まぁだから手早く【論文化】できる研究テーマがアカデミックでは良い研究テーマとなりがちなのは、いかがなものかとも思います。

 

とはいえ3年で論文化のイメージが全くわかない雲を掴むような研究はちょっと厳しいかなとも思うのでその辺は研究テーマは運なんて言われたりするのが理解できます。

 

生物系なんかは話を聞くとなかなか雲を掴むような壮大な研究テーマだったりするので上の話はピンと来ないかもしれませんが。

 

ともかくオックスフォードの研究は2017年開始でコロナもあったけど2021年なので論文化まで4年かかりました。まぁ。。。ギリギリセーフかな。自分はこの研究成果に完全に満足しているので嬉しい限りです。

 

今回オンライン化された研究の小話を少しだけ書きます。(査読付きに通ったらまたどこかでしっかり書いても良いかも。)

 

まず今回の研究テーマは教授の不斉非対称化のアイデアとそれを実現する研究力(ニトロアルケンのスケーラブル合成)、途中の難局を乗り切るアイデア(B、D環構築)、そして最後の山場、右側のE環構築、さらに不斉非対称化の立体選択性をDFT計算で証明するとこまでやってやっと論文化できました。

ニトロアルケンのスケーラブル合成からB環、D環構築は僕が実際にやりました。

 

留学して最初の一年は英語わけわからん、ニトロアルケンは全然できないってので実際かなり苦しかったです。ありがたいことに教授が半年くらい経ったころに研究が上手く行ってないことを心配してくれて研究テーマをどうしたいか聞いてくれたのですが、僕は「このニトロアルケンが全くできないというのが、逆に僕は絶対に造ってやるって思えてきたよ」って返事したら、教授がとても嬉しそうだったのを覚えてます。


もともと僕が渡英した当時はニトロアルケンの原料合成は前前任のポスドクがメチルのものを合成してたけどそれ以外はちょっと厳しそう、非対称化は触媒検討したところ割と良い感じかも、という所で終わっていて、前任者はニトロアルケン不安定すぎてダメダメ!他のでやってみたけど反応が上手く行かない!全然だめ!!このテーマはクソだからやめた!ってな状況でした。

前任者達の実験ノートも6〜7冊くらい?

海外あるあるなのか構造式もうんちくりんなやつで試薬測った量も手順も書かれてないようなの。何がOKで何がだめなのかわからないまとめスライドと一緒にどうぞって渡されて研究がスタートしました。

研究室の学生に聞いても「hahaha、そのニトロアルケン合成ずーーーっとやってるからなぁニヤニヤ」みたいな。

結局かなり昔に報告された有機亜鉛試薬のマイケル付加、セレンのβ脱離をちょいちょいっと改良するだけでなんとかなったんですが、まぁ研究なんてそんなもんと言ってしまえばそれまでですが、そんなもんです。(有機亜鉛試薬の調製の再現性、実行できるスケール、アルケンのE/Z選択性、アセタールの除去でニトロアルケンが無事かなど、もちろん全然このルートを最初から選ばない理由は山盛りなわけでして、もういよいよこれでダメなら教授に相談に行こう、このテーマは終わりかもしれないと最後の覚悟で検討しました。)

 

有機亜鉛試薬のマイケルがspot to spotで反応した時はTLCを持ってる手が嬉しさで震えてました。落ち着け、NMR見るまでは落ち着けって言い聞かせるのが大変でしたよ。

 

夜の7時ごろだったと思いますが、クルードのNMRが付加体だって確信したときは近くにいた研究室の学生に嬉しくてTLCと NMRを見せに行ったくらい興奮してました。その後はもちろん精製までやって、その日は11時くらいに帰宅したんじゃなかったかなぁ。

 

つまり論文のFigure 4が自分の魂なんです。ええ。そうですとも

論文からは想像もつきませんけど。

 

モデルで上手くいったけどほんちゃんでラジカルニトロ化使えんかったから改良したわ。

この一文だけで間に二人ポスドク挟んでるのだ。驚き。

海外の教授というのは学生のモチベーションを維持することをとても大切にしているという印象を受けました。(日本で半年成果なしだとお前そんなのもできないのか、半年何やってるんだ、熱意が足りない研究向いてないとか言われかねないと思ってます。とはいえあれヤダ!これヤダ!!って言うポスドクには流石に難色を示していた気もしますが。)

 

その点今所属してる研究室のボッスはその辺、海外に近いので良い感じ。

ということで、今回ようやく研究成果がオンラインでお披露目できました。

 

めでたしめでたし。

 

 

イギリスにいた当時の記事と読み比べて見ると面白いかも。この辺はやっぱりブログ書いてて良かったと思うわね。

【海外ポスドクよもやま話】ポスドクはつらいよ?〜海外の教授にOutstandingと言われるまで〜 - Dr.ピペリジンのブログ

 

 

記念写真でもちょっとだけ貼っとくよ。(ほんとはもっともっとたくさんあります)

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検討初期の頃のニトロアルケン合成

いやこのTLCは、だいぶ終わってる。

 

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一番最初にやった有機亜鉛試薬のマイケル付加のTLC(だったはず)

手が震えたよ。

 

 

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改良法でついに合成出来るようになったニトロアルケン

お試しで合成したので少量だけど嬉しすぎて写真撮っちゃったやつ。


 

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20gでニトロアルケン合成を初めた時のやつ

トシルかけたら50gになっちまったぜ。

 

 

 

 

 

ps. 最近、子供の離乳食が始まって、日曜の朝ブログ書いてたんですがそれがなかなか時間的に厳しくなってます。むむむー。

天然有機化合物の合成は得意ですが料理はまだまだでして、今日焼きそばを野菜切るところから作りました。上手にできました。美味しい。やったーーーー。