Dr.ピペリジンのブログ

少年は思った、ドラッグストア でポテチ売りたいな。そんな気持ちで薬学に進学した人の後日談。お問い合わせも気軽にどうぞ。

全合成達成ついでに全合成TIPS

どうも伊予柑いい予感です。(このネタ愛媛県人しかわからん?)

大学を異動してちょうど2ヶ月が過ぎましたが早速一つ天然物の全合成を達成したのです。

「・・・まるで全合成のバーゲンセールだな・・・」

ごめん。このセリフが頭をよぎりました。(過ぎると書いてよぎると読むんですね。PCの変換で初めて知りました。国語も勉強できるブログですよw)

 

さて、異動して最初に与えられたプロジェクト。前任者がいて既に全合成は達成していたんだけども、途中で8種類ジアステレオマーができて合成後半などはかなりコンプレックスで収率も出せないけどなんとかできました!っていう合成だったをなんかいい感じにしてっていう指示のみの無茶な注文だったわけです。

この合成ルートで最初思ったのは、8種類ジアステレオマーは実は合成終盤の酸化で2種類にまで減るということ、反応性官能基のケトンが無保護だったことなどから、ケトンを保護して酸化反応を丁寧に検討すればジアステレオマーはなんとかねじ伏せれるのではないかなぁと。

それでひとまず前任者の報告に従って量上げから始めました。
まぁ前半は収率は中程度としてもまぁそんなもんかなって感じでサクッと一番重要そうな中間体まで量上げしました(>3 g)。

さあここからジアステレオマーができますよってところ、まず一段階目、うむうむ二つのジアステレオマーができたな。想定の範囲内

次、よしここで4種類のジアステレオマーができるよね。とりあえず100 mgスケールでやってみよ。あれれ原料が消えないぞー。てか前任者ここ10 mgとかでしかやってないんかい。ちょっとスケール上げたら半分原料回収やんけ。ジアステレオマーももちろんあるね。

うーむ。

メンドクセ(^。^)。


とかやってるうちに前期試験の試験監督のお手伝いを命じられました。いちお大学の先生なんでね。

試験直前。

生徒が座席に座ってる。あぁ、薬学部の時はあっち側だったのに今はコッチ側にいるのかぁとしみじみ思うなどしてました。

いよいよ試験開始。

 

15分経過、カンニングは見逃さないぞーってジロジロ見てたけどみんな一生懸命問題に取り組んでるし大丈夫そやな。てか国立大学ってやっぱ私立大学に比べて人数少ないんで試験監督が楽。てか私立は昔240人とかいたから絶対監視するの大変でしょ。

30分経過、あんまジロジロ見てたら試験に集中できんよね。あぁ8種類のジアステレオマーどないしょ。うーーん。うーーーーーーーーん。これはどうだ、いや炭素一個多いわ。こっちはどうかな。いや後からこうするのはナンセンスやな。あれ、そもそもなんで後からこれやってんの。そうかピロールは聞いた話によると結構めんどくさい子だったな。ピロールのアルキル化って窒素からいく?それとも3位から??んーーーーー。え、じゃこうすればよくね?あれこれ最強じゃね???

ってな感じで30分くらい考えた末に新しいルートを一つ思いつきました。

この時は試験開始から約1時間くらいだったでしょうか。試験時間の残り30分は教室の空気と同化してました。(ちゃんと監督もしてましたよ!)

さ、そんなワケで試験が終わってから思いついたルートの検証をサイファインダーでやるわけですね。

うむ、やりたい反応自体は全く報告がない。全合成なので反応自体は例があってもなくてもいいんだけど・・・。例がなくてもオックスフォードで得た合成のセンスがこれはいくよって語りかけてくるからきっといけるさ。

そうすると次はその化合物が準備できるかを検証します。サイファインダぁで。
なるほどこれはパテントが一件あるのね。その後は・・・ほう。ドンピシャなんはないけどインドールとかでは割とあるみたい。んー。まぁこれはなんとかなるっしょ。

てな感じで試験監督しつつ研究テーマと過去のデータを頭の中で一度整理して考え直したルート。途中で4連休とか挟んだから試すのがちょい遅れたのだけどなんやかんや2週間くらいでサクッと決まりましてしかも天然物の立体しかできないルート、プロジェクト開始から2ヶ月で全合成達成と相成りました。家事育児もしてるよ( ^ω^ )!

つまり何が言いたいかというと、全合成が上手く行かない時はね、焦って実験しまくるのではなくて、むしろ一度立ち止まってみてはということ過去のデータをしっかり頭に入れて、それから頭の中であっちを切ってこっちを切ってって思考実験を繰り返してみたら良いと思います。オックスフォードではよく昼間からユニバーシティパーク(一周約5km)を散歩して考えました。どん詰まった時のかなり重要な解決法は研究室に大遅刻してるのにも関わらず、家から研究室(これも約5km)に歩いている間に思いつきました。

前ポジの大学では朝8時55分に来るだけで批判叱責の雨あられ。熱意が足りない実験数が少ないって毎週口をへの字に曲げて怒られる。←実験うまくいっても行ってなくても。何故なら僕が帰宅する時間が早い(21~22時)から。文句言わないと気が済まないんだろうね。毎週12時間以上を費やして行われる無意味なディスカッション。TLCの挙動の説明とか反応の色とか?まぁ僕とは合わなかったすね。誰か寂しいじいちゃんに合成ロボットでもプレゼントしてあげたら?(まぁ使いこなせなでしょうけど)

以下、全合成で僕が気をつけてるTIPS。思いついた順で書いていくので上に行くほど重要ってわけではないよ。

 

全合成TIPS(シリルじゃねーぞ) 〜楽しく全合成に挑戦しよう編〜


1、合成ルートでストックできそうな中間体を決める

検討が必要なところまで2段階くらい前以内であることが望ましい。後は複数の反応ルートに派生できるところ。

2、上手くいくかわからない反応はとりあえず20 mgくらいでやってみたら

20 mgあれば割と試薬も計り取れるし、いくつかスポットができても割と解析できる。いきなり10 mgはちょっと目的物ができてても正直解析ができん。20 mgでやってココが欲しい化合物のピークやな、TLCスポットはこんな感じってのが分かってれば後は全然5 mg、 10 mgで検討可能。

 

3、適切な精製方法を選択できる、技術がある

prep TLC(通称板精製)、もしくはパスツールピペットカラムできちんと精製できる技術は是非とも欲しい。パスツールピペットカラムはジクロロヘキサンあたりでチャージしたらまずヘキサンでしばらく(2 mlくらい)流すやで。その後化合物のRfが0くらいの溶媒から徐々にグラジエンとして流していくといいんやで。例えばヘキサク10:1で取りたいスポットが原点になる場合、まずヘキサク(5ml : 0.5 ml)流す、次はヘキサく(9ml : 1 ml)、次はヘキサク(8ml : 1ml)・・・・ヘキサク(4 ml : 2 ml)あたりまで流したらTLC見てみ。結構いい感じに分かれてんで。10~20 mgは板精製が確実かなぁ。10 mg以下はもう板精製のロスのがイタイのでピペットカラムのがいいかも。

 

4、クルードNMRは絶対とる

反応開発の人、あんまクルード取らんよね。んなことない?クルードNMRの情報まじで偉大だから。一番大事なのは精製してから目的物のピークがクルードでアサインできるようになってから見るクルードNMRなのよ。だから精製前にクルードNMRは絶対とるべきよ。

 

5、化合物が不安定?と思ったら二次元 TLC
クルードNMRはいい感じやのに収率が悪いなぁ。化合物が精製すると余計汚くなる。そんな時は二次元TLCを取るといいね。シリカに不安定なやつはそのまま次の反応させるか中性アルミナなんかを通してみるといいよ。これは素朴な疑問だけどアルミナてなんで酸性塩基性中性があるんだろ。中身どうなってんの?

 

6、分液の水相はちゃんとTLCとって

特に量上げの時。スケールあげると意外と水相に残ってやがる。僕はズボラなので割とパスツールでズドンと水相をTLCに乗っけたりするけど、化合物いたらちゃんとTLCで上がってくるよ。あとエーテルで分液する時な。なかなか水相に残ったりする。ある論文でギ酸ペンタンで分液、収率すげーいいって報告されてたの分液で99回ペンタンで振ったけどほとんどギ酸相に化合物いたで。え、論文ウソなん?なんやでまじ。😟

 

7、この反応を試したいなって論文&実験項は即見れるようにPDFで保存、整理

例えばエノンの還元だったらサイファインダーで無限に出てくる条件から信頼性の高そうなJACS、 あんげ、OLとかJOCとか実験項付きの論文をPDFに落としていつでも見れるようにしておいて。この条件がダメなら次こっちって直ぐに試せるから。あと論文書くときのReferencesにも使えて便利ぽよ。

 

8、一口ナス+セプタムで反応仕込んでみてはいかが
これは完全にイギリス仕込みです。日本にいた時は小スケールでも10 mLの二口ナスに三方コック、セプタムつけて真空ポンプにヒートガンでドライアップして、そこに原料入れてーなんて忙しく準備してたんですがね。イギリスにそもそも三方コックないし10 mlの二口ナスもなかった(か、バリバリに割れてたかな)ので仕方なく一口ナスにセプタムして試薬は上から滴下してたんだがコレが意外と準備が早くて使える。禁水反応も全然余裕っす。一口ナスの乾燥は原料をは計り取って脱水トルエン入れてエバポ、真空+攪拌子で飛ばすのが断然早いっすよ。

9、ヒートガンでドライアップ?you脱水トルエンで共沸しちゃいなよ
直上で書いたばっかりだけどもう一度書いとくね。フラスコを真空ポンプにつないでヒートガンで炙ってから冷ます。冷めたら原料計りとって。。。って操作なんだけどこれが結構僕にとっては億劫なんですよ。まずフラスコに化合物計りとって、そこに脱水トルエン入れてエバポx2、撹拌子入れて真空つなぐとぷくぷくトルエン飛んでいくので十分飛んだらアルゴン置換、反応溶媒入れてって方が断然楽っす。

 

10、ガラスシリンジに金属針、真空につないでドライアップ?いやそれディスポシリンジにディスポ針でええんよ

ディスポシリンジにディスポ針で強塩基もルイス酸も問題なく使えます。ドライアップする時間ないのでまじ早いっすよ。使い終わったらシリンジ捨てにポイ。ボッスにお願いして買ってもらおう。

11、カラム試験管の洗浄、アセトンぴゃーでよくね?

多分これをなんだか気持ち悪いと思う人もいるかもね。オックスフォードではみんなまじアセトンで適当に洗っただけ(アセトンかけるのさえ適当すぎて衝撃)けど、全然コンタミとかないっすね。ほんと3年間コンタミなかったっすよ。

 

12、あえて化合物を破壊してみる
例えばマイルドな条件でこっそり還元したいなって思てるやん。いきなりLAHにぶち込んで見たらどうなるかね。ほう、ここで止まるんだ、みたいな化合物の分解の上限を知ると良いかもしれないね。

 

13、こまめにカーボンNMR、Dept 135、COSY、HSQCをとろう
分子の複雑さにもよるんだけどさ。3ステップくらい進めてなんか全然反応しなくなったぞと思ったら分子量一緒なのに分子内で環化してたとかあったからさ。あるはずのケトンのカーボンが消えて別の4級炭素が出現してた時は冷や汗が止まらんかったよ(実話)。午前中頭抱えてNMRチャートにしがみついてた。



14、NMR解析、えっ、まだ拡大コピーに定規で線引いてクロスピーク見てるの?Mnova 便利よ

オックスフォードで導入されてたM novaだけど使ってみて。便利だから。永久ライセンス9万円(2021年現在)で導入できるから。MS解析とかのオプション付きだと18万円だってさ!さぁ金持ちボッスに相談だ!DC取ってたら導入検討してみては。


15、ケムドローにこれまでの進捗とこれからの展望を可能な限り一枚絵で書き込む

博士課程のときからやってるけど、これで実験のデータが頭にスッキリ整理できるんです。今問題になってる変換、代替案、どの中間体から他のルートが検討できそうか、なんかも思いついたらメモでケムドロしとくと良い。ほんとこれがいつも困った時に役立ってます。多分このケムドロのイメージが散歩中に頭で再現できるから、そこが良いんだと思う。

 

16、酸化、還元、保護、脱保護、 C-C結合生成
ま、結局全合成ってのはこれの繰り返しなんですわ。うまくいかん時はこの5つ、特に酸化、還元、保護、脱保護をどうにかいじってみませんか。

 

17、モデル実験は所詮モデル実験
モデル基質でうまくいかない?モデル基質作るのに時間がかかる?
いやほんちゃんやったらええがな。そういう思い切りが必要なシーンも多分あるよね。

 

18、小スケールすぎて試薬計れないよー!!!
シリンジに極小針つけて天秤で一滴の重さ測ってみて。一滴2 mgだとして6 mg系中に入れたいなら3滴垂らすとイイネ。それでもキツそうなら溶媒で希釈して入れちゃおう。

 

19、パラジウム触媒のカップリング反応やるぞ!さて触媒量は?

パラジウム使ったカップリングって便利ですよね。論文だと2.5 mol%とか5 mol%っていう触媒量の条件が多いと思うけど全合成の複雑な分子になってくると反応性がイマイチだったりスケールが小さかったりして論文通りの触媒量だと反応が止まってノーリアクション!なんて事も普通にあります。そういう時はとりあえず10 mol%くらいまで増やしてみると良いかもしれません。基質によってはオーバーリアクションが行ったりもするのでよく観察しよう。

 

20、化合物はキレイにラベリング

化合物を移したバイアル。実験番号をマジックで書いて保存。。。してたはずが消えてる!なんてことがあります。油性マジックでもガラスの上だと水で消えるんです。そうならない為にもビニールテープか何かにきちんと構造式、実験番号、量を書いて冷蔵庫に保存すると良いですよ。可愛くラベリングしたサンプルが増えてくるとなんか嬉しいですし😃。

 

21、有機亜鉛試薬作るの大変じゃー。グリニャーと塩化亜鉛エーテル溶液使いなよ?

ほうほう、アルキルハライドと亜鉛パウダーをTHFで還流オーバーナイトとな。ファッ次の日来たらTHFカラカラやん。そんなアナタに朗報デス。グリニャールと塩化亜鉛エーテル溶液をTHF中で混ぜ混ぜするだけで有機亜鉛試薬できますよ。ちなみに塩化マグネシウムがドサっとできるので1,4-ジオキサンで沈殿させて、沈殿をなるべく吸わないようにしてシリンジに吸えばええぞな。

 

22、データ集めの順番は?

よく乾燥させたサンプル10 mgを測ってプロトンNMR→カーボンNMR→αD→IR→融点→マス

が良いんじゃないかねぇ。

αDだけは重さがいるから10 mgなら10 mg回収出来るNMRから先に測って、終わったら直ぐにαD測ると良いな(先週からデータ集めててコレがいい感じ)。IRは装置によって測りやすさが全然違うのでIR測定が手間な装置だったら買い替えの提案もアリかもね。

 

うぉぉESIMSあたらねぇよおいぃ。病みそう。

 

23、pH試験紙は机に忍ばせとこう

 ん、水相ちゃんとクエンチできてるかな?そう思ったらささっと引き出しからpH試験紙を取り出してチェックしよう。分液を制するものは全合成を制する。

 

24. 卓上ゴミ箱

自分の実験台の上に卓上ゴミ箱はいかが?フラスコの外側を拭いたトイレットペーパーやらディスポ針の袋、パラフィルムのカスから濾紙まで、それ一つ有ればぽいぽいぽいぽぽいぽいぽぴーっと捨てれます。帰る前に共通のゴミ箱に中身ポイすればいいので便利ですよ。

 

25. 定期的に実験台を整理

実験すると実験台がとっちらかりますね。昔ある助教先生がおっしゃってました。実験台が綺麗でないのは実験で忙しくないってことだ。実験が忙しいと常に実験台が綺麗でないと作業が直ぐに出来ない。それはつまり忙しくないってことだ、と。

そしたらある日、実験台が綺麗なのは全然実験してないからだって指摘されたとかなんとか。

まぁそれは置いといて、定期的に実験台の上は綺麗にしときたいですね。

 

例外的に論文になるまでほとんど実験台を整理しない学生がいましたが(たぶんフラスコなんかもカゴに溜め込んでた)、彼は天才的で論文を半年に一つくらいで仕上げてたのでテーマが終わったら一気に洗うって感じでしたな。

普通の人がコレをやったらダメでしょうね。

対照的にいつも実験台がマジぴかぴかで、それで半年に一報ペースで書く同僚もいたので、実験台の綺麗さで研究進む進まないはあまり判断にならないのかも?

 

僕はいつもオックスフォードのオフィサーさんに実験台整理せんかい!って注意されてましたとさ。残念!

 

26. 実験のやる気がおきない時は実験台の整理か昼寝か散歩

正直言って実験が手につかない時はあると思う。

あー!実験やってらんねー!って気持ちで大切な実験を仕込んでもあまり上手くいかないと思う。そういう時は実験台を整理するとか、昼寝する、散歩するとかした方が良い。

僕は研究時間に散歩推奨派。

散歩中にやる気が戻ったりアイデアが閃いたりする。

 

あーあ、やる気ないとかダメダメだなって思う必要はないのです。やる気おきなくなる理由は様々ありますよね。最初からやる気ないのは話が違うけど。一生懸命やってうまくいかないと結構辛い。デコンプ、ノーリアクションの山を築いてなおやる気落ちずに仕込める人はそれはそれでスゴいけど、そういうガテン系の人ばかりでないと思うよ。

 

んー。。。他になんかあるかな。思いついたらその都度追加していきます。。
読者の人からこんな時どうしてますか的な質問があれば追加してみるかもしれまセーヌ川

 

p.s. 愛媛の学校関係の皆さん、愛媛からオックスフォードって話ならいつでもどこでもやりますよw